まだたべ

新井由木子【まだたべ】vol.013 謎の種の巻 | www.deliciousweb.jp

何十年と生きていたって、世の中にはまだ食べたことのないものが溢れています。隣の家では毎日のように食卓に並んでいるのに、我が家では見たことも聞いたこともない、なんていう食べものもあるかもしれません。この連載では、そんな“まだ食べたことのないもの”が気になって仕方がない、というイラストレーター・新井由木子さんが、食べるモノや関わるヒトと奮闘する日々を綴ります。  わたしの生まれ故郷式根島を含む伊豆諸島には、明日葉という美味しい野草が生えています。  今日摘んでも明日にはまた葉が出ているので明日葉。天ぷらにして良し、おひたしにして良し。わたしの実家、式根島の家の庭先にも自生していて、味噌汁の具がちょっと物足りなかったら庭に出て摘めば良いという贅沢な暮らしです。  ところで、その庭の向こう側にある、今は母の丹精する四角い農地は、元々父の希望で造られた自家用テニスコートでした。しかも、芝生の。  まるで豪邸のように聞こえますが、うちは生粋の庶民。土地のあるのどかな島だからできたことだと思います。しかし召使もいない庶民が芝のコートなどを持つと、管理がとっても大変なのでした。夕暮れ時に重たいローラーを引いている自分をスポコン漫画みたいと思ったのを覚えています。  テニスができる状態だったのは、そう長い間ではなかった気がします。ただの芝生となったその場所に、わたしと妹はよく、当時飼っていたモルモットの一家を放して遊んでいました。  ペットショップでせがんで買ってもらった最初の2匹は見るみる増えて、すぐにモルモットの大群となりました。彼らの繁殖力を持ってすれば当然の結果です。モルモットをカップルで飼おうとしている小学校低学年のわたしを、周りの大人たちはなぜ止めなかったのか。そこには疑問が残ります。  モルモットたちはやがて男組と女組に分かれて暮らせるよう、父により飼育小屋が改造されました。  それによって増えるのが止まるかと思いきや、分室してすぐに男組の様子がおかしくなりました。一匹の若い雄のお尻を、男組全てのモルモットが低く唸りながら追いかけているのです。

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ペレカスブック店主新井由木子のイラストエッセイ。

世界文化社デリシャスウェブにて。

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